「蕎麦は、つゆにどっぷり浸すのではなく、薄くつまんだその先だけを軽くつけて、一気にすすって食べるもの。」
そう教わったのは、10年以上も昔のはなし。
そんなの味気ないじゃん、って思いつつ、素直に従う。
「蕎麦は、いきなりつゆにつけるのではなく、最初はそのままで、次はお塩だけで味わうもの。」
さらにそう教わったのは、7〜8年前のはなし。
なんだか気取ってるみたいじゃん、って思いつつ、結局従う。
今思うと、当時の私の振る舞いは、お蕎麦屋の大将やカウンターで隣り合わせたオジサマの目にはやや滑稽に映っていたんでしょうね。きっと。
それから、自分で蕎麦を打つようになり、日本酒の味をおぼえ、見た目もそれなりに老けてきたおかげで、ようやく蕎麦をすする姿もサマになってきたような、まわりのオジサマたちに馴染めているような、嬉しいような、淋しいような。
そんなことをふいに思い出したのは、とある平日のランチで、オフィス近くにオープンしたお蕎麦屋さんに足を踏み入れた時のこと。
女性ヴォーカルのジャズが流れる店内は、まだ12時前だというのにスーツ姿のオジサマたちでほぼ満席。
融通の利く立場の人が多いのか、なかには昼酒を決め込んでいる人も。
温かい鴨なんのつけ汁でいただく板蕎麦を注文、蕎麦の太さを選ぶように言われたけれど、太さを選んだことがなかったので素直におススメを訊く。
「ウチは太いのがおススメですね。蕎麦を噛んで味わっていただきたいんです。」
そうして出された板の上の蕎麦は、太くてやや短め。
確かに「すする」というより「噛みしめる」。
「この場合、どうやって食べるのが正解?」
10年前の私なら、きっとそこで手が止まったかもしれないけど、今の私は自分の塩梅で。
「決まりごと」を超え、自由に愉しめるようになった時にようやく、本当の付き合いが始まるのかもしれません。
蕎麦湯でぬくもってお店を出た私、一人前の蕎麦喰いに近づけてますか?
*****
板蕎麦 香り家
住所:広島市中区大手町2-7-27
Tel:082-247-2490
営業時間:11:30-24:00
定休日:なし